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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1742号 判決

原告(反訴被告)

株式会社ケー・シー・シー商会

ほか一名

被告(反訴原告)

藤澤勝

主文

一  原告等の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故に関する損害賠償債務が、主文第二項掲記の金額を超えて存在しないことを確認する。

二  反訴被告(原告)等は、反訴原告(被告)に対し、各自金一〇二四万三五八八円及びこれに対する昭和五九年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告等のその余の請求、反訴原告(被告)のその余の反訴請求を、いずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを三分し、その二を原告(反訴被告)等の、その一を被告(反訴原告)の、各負担とする。

五  この判決は、反訴原告(被告)勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

以下「原告(反訴被告)株式会社ケー・シー・シー商会」を「原告会社」と、「原告(反訴被告)若山政彦」を「原告若山」と、「被告(反訴原告)藤澤勝」を「被告」と、それぞれ略称する。

第一当事者双方の求めた裁判

一  本訴

1  原告等

(一) 原告等の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故に関する損害賠償債務が存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

(一) 原告等の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  反訴

1  被告

(一) 原告等は、被告に対し、各自金三一〇六万五二三八円及びこれに対する昭和五九年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、原告等の負担とする。

(三) 仮執行宣言。

2  原告等

(一) 被告の反訴請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  本訴

1  原告等の請求原因

(一) 別紙事故目録記載の交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

(二) 右事故は、原告若山の過失により発生した。又、原告会社は、右事故当時原告車の所有車であつた。

よつて、原告会社には自賠法三条により、原告若山には民法七〇九条により、被告に対し、同人が右事故により受けた損害を賠償する責任がある。

(三) 被告の損害

(1) 被告は、本件事故により、頭部外傷、顔面口腔挫創及び擦過傷の傷害を受けた。

(2) 被告の右受傷治療の経過は、次のとおりである。

宗野病院 昭和五九年三月二三日入院。

吉田病院 同年三月二三日から同年四月七日まで入院。

同年四月八日から同年一一月五日まで通院。

久野病院 同年一一月六日から同月八日まで通院。

同年一一月九日から昭和六〇年三月三一日まで入院。

頭痛、頭重感症を残し、症状固定。

(3) 被告が右受傷によつて受けた損害は、次のとおりである。

(イ) 治療費 金三六八万三〇八五円

(ロ) 入院雑費 金九六〇〇円

(ハ) 休業損害 金三二二万二七五八円

(ニ) 入通院慰謝料 金九五万円

合計 金七八六万五四四三円

(四) 過失相殺

(1) 被告には、本件事故の発生に関し、進行前方の信号機の標示が赤色点滅であつたのにもかかわらず、これを無視して進行した過失がある。

しかして、被告の右過失割合は、七〇パーセント相当である。

(2) そこで、被告の前叙損害総額金七八六万五四四三円を、被告の右過失割合で、所謂過失相殺すると、被告の本件実損害額は、金二三五万九六三三円(円未満四捨五入。)となる。

(五) 損害の填補

(1) 被告は、本件事故後自賠責保険金一八〇万円を受領したし、本件治療費の内金三六六万九〇二〇円も支払ずみである。

(2) そこで、右各金員の合計額金五四六万九〇二〇円は、被告の本件損害の填補となるところ、右損害の填補額が被告の本件実損害額を上廻ることは、右両者の金額の比較によつて明らかである。

よつて、原告等の被告に対する本件損害賠償債務は、もはや存在しない。

(3) しかるに、被告は、原告等の右主張を争つている。

(六) 以上の次第で、原告等は、本訴により、同人等の被告に対する本件損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

2  請求原因に対する被告の答弁及び抗弁

(一) 答弁

請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)中被告が本件事故により受傷したこと、被告が原告等の主張にかかる各病院に入通院して右受傷の治療を受けたこと、被告が右治療を受けるため出捐したこと、被告の右受傷が現在症状固定していることは認めるが、同(三)のその余の事実は全て否認。同(四)の事実は否認し、その主張は争う。同(五)(1)、(3)の各事実は認める。同(五)のその余の事実及び主張は、全て争う。同(六)の主張は、争う。

(二) 抗弁

被告は、本件事故により、原告等が主張する以上の損害を受けた。

右損害の具体的内容は、反訴請求原因(三)以下のとおりであるから、これを引用する。

3  抗弁に対する原告等の答弁及び再抗弁

(一) 答弁

反訴請求原因(三)以下に対する答弁と同じであるから、これを引用する。

(二) 再抗弁

反訴における抗弁と同じであるから、これを引用する。

4  再抗弁に対する被告の答弁

反訴における抗弁に対する答弁と同じであるから、これを引用する。

二  反訴

1  被告の反訴請求原因

(一) 本件事故が発生した。

(二) 右事故は、原告若山の過失により発生した。

又、原告会社は、右事故当時原告車の所有者であつた。

よつて、原告会社には自賠法三条により、原告若山には民法七〇九条により、被告に対し、各自同人が右事故により受けた損害を賠償する責任がある。

(三) 被告の本件損害

(1)(イ) 被告は、本件事故により、頭蓋底骨折、左頬骨骨折、頸部捻挫等の傷害を受けた。

(ロ) 右受傷の治療経過及びその具体的内容は、別表のとおり。

なお、昭和六一年五月一六日症状固定。

(ハ)(a) 被告は、本件治療費として合計額金一〇六三万六三三七円を出捐した。

右内訳は、別表のとおり。

(b) 入院雑費 金二三万三〇〇〇円

入院期間二三三日中一日当り金一〇〇〇円の割合

(2) 休業損害 金七九五万〇二二二円

(イ) 被告は、本件受傷により、本件事故当日の昭和五九年三月二三日から本件症状固定日の昭和六一年五月一六日までの七八五日間就労できなかつた。

(ロ) 被告が経営していた訴外藤勝組は、被告の息子等が引継いでいるものの、被告の収入は皆無となつた。なお、被告の聴力は、右事故前多少悪かつたが、同人の就労や日常生活に何等支障を来たすことがなかつた。

そこで、被告は、本件休業損害として、昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表産業計満五八歳労働者の平均年収額金三六九万六六〇〇円を基礎として計算した金七九五万〇二二二円を請求する。

(369万6,600円×785/365≒795万0,222円)

(3) 本件後遺障害に基づく逸失利益 金一七六二万一六九二円

(イ) 被告に本件受傷による後遺障害が残存するところ、右後遺障害は、自賠責保険手続において、次の点から障害等級八級(併合)該当と認定された。

左目の視力低下 一三級一号

両耳の難聴 九級七号

神経障害 一四級一〇号

(ロ) 被告の右後遺障害による労働能力喪失率は、六〇パーセント相当である。

被告の右後遺障害の該当等級からすると、同人の右後遺障害に基づく労働能力喪失率は、所謂労働能力喪失率表を機械的に適用すれば、四五パーセント相当ということになるかも知れない。

しかしながら、本件の如き後遺障害に基づく労働能力喪失率を決定する場合、右労働能力喪失率表を機械的に適用すべきではなく、右後遺障害を有する者の症状職業等を具体的に考慮して決定すべきである。

これを本件についてみるに、被告は、本件事故直前まで、前叙藤勝組の営業(セールス)に従事していたところ、本件後遺障害により聴力視力の障害が残存し、又、頭痛、左側上顎疼痛症、もの忘れ等が激しい状態になつているため、右営業に従事することが殆ど不可能になつている。被告のかかる具体的障害状況からして、同人の労働能力喪失率は、少くとも六〇パーセント相当というべきである。

なお、本件事故前、被告の聴力に障害が存在したことは事実である。しかし、当時、被告の前叙営業従事は、右障害によつて何等影響を受けていなかつた。即ち、被告は、右障害の存在にもかかわらず、完全に就労していたものである。

(ハ) 被告が従事していた右業務は、いわば自営業の性質を持つものであつて定年制等がなく、被告の身体の続く限り従事可能なものである。これに、被告の本件症状固定時の年令を考慮すると、被告の就労可能年数は少くとも一〇年というのが相当である。

(ニ) 被告の本件逸失利益算定の基礎となる収入は、前叙のとおり年額金三六九万六六〇〇円である。

(ホ) 以上の各事実を基礎として、被告の本件後遺障害に基づく逸失利益の現価額を算定すると、金一七六二万一六九二円となる。(ただし、七・九四五はホフマン係数)

(369万6600円×7.945×0.6=1762万1692円)

(4) 慰謝料 金一〇四〇万円

(イ) 入通院分 金三〇〇万円

被告の本件受傷治療のための入通院期間は、前叙のとおりである。

右事実に基づけば、被告の本件入通院慰謝料は、金三〇〇万円が相当である。

(ロ) 本件後遺障害分 金七四〇万円

被告に障害等級八級に該当する後遺障害が残存することは、前叙のとおりである。

右事実に基づけば、被告の本件後遺障害慰謝料は、金七四〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用 金三〇〇万円

被告は、原告等の本訴提起に対しこれに応訴すべく、弁護士である被告訴訟代理人に訴訟委任せざるを得なくなつた。

右弁護士費用は、金三〇〇万円である。

(6) 以上、被告の本件損害の合計額は、金四九八四万一二五一円となる。

(四) 損害の填補 金八〇四万三九八〇円

(1) 被告は、本件事故後、本件治療費金三五五万三九八〇円、その他の損害に対する分金一八〇万円、自賠責保険金金二六九万円、合計金八〇四万三九八〇円を受領した。

(2) そこで、右受領金金八〇四万三九八〇円を本件損害の填補として、被告の本件損害合計金四九八四万一二五一円から控除すると、その残額は、金四一七九万七二七一円となる。

(五) よつて、被告は、反訴により、原告等に対し、本件損害金四一七九万七二七一円の内金三一〇六万五二三八円及びこれに対する本件事故日である昭和五九年三月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  反訴請求原因に対する原告等の答弁及び抗弁

(一) 答弁

反訴請求原因(一)、(二)の各事実は、認める。同(三)(1)(イ)中被告が本件事故により受傷したことは、認めるが、その内容は不知。同(1)(ロ)中被告が本件受傷治療のため宗野病院(昭和五九年三月二九日)、吉田病院(昭和五九年三月二九日から同年一一月五日まで)、久野病院(昭和五九年一一月六日から昭和六〇年三月三一日まで)に入通院したことは、認めるが、その余の事実は、全て不知。被告の本件受傷は、昭和六〇年三月三一日頃既に症状固定していた。したがつて、仮に、被告において右時点以後入通院していたとしても、右入通院にはその必要性がなかつた。同(ハ)(a)の事実は、認める。同(b)の事実は、不知。同(2)(イ)中被告が本件事故当日の昭和五九年三月二三日受傷したことは、認めるが、同(イ)のその余の事実は、争う。なお、被告の右受傷が昭和六〇年三月三一日頃既に症状固定の状態にあつたことは、前叙のとおりである。同(2)(ロ)中被告が本件事故当時訴外藤勝組を経営していたこと、右事故前被告の聴力に障害があつたことは、認めるが、同(ロ)のその余の事実は、争う。被告には、本件事故当時両耳の平均純音聴力損失値が四〇デシベル以上の重度の聴力障害が既存した。したがつて、被告が右事故当時充分な稼働能力を持つていたとはいえない。又、右藤勝組の売上げは、昭和五七年度金一七〇〇万円、昭和五八年度金二五〇〇万円、昭和五九年度金三五〇〇万円と、本件事故後もその業績が伸長しており、被告の本件休業が右藤勝組の経営に何等影響を与えていないことは、明白である。したがつて、被告が主張する本件休業損害については、その主張全額が発生したとすることはできない。右各事実を考慮すると、仮に、被告の本件休業損害算定の基礎収入を、その主張のとおり賃金センサスにより定めるとしても、それによつて認められる金額を大幅に減額(最大に認めるにしても、五〇パーセント程度。)して採用すべきである。同(3)(イ)の事実は、認める。同(ロ)中本件事故前被告の聴力に障害が存在したことは、認めるが、同(ロ)のその余の事実及び主張は、全て争う。本件事故前被告に重度の聴力障害が存在したことは、前叙のとおりである。しかして、右既存障害は、障害等級一〇級四号に該当するところ、障害等級一〇級四号とは、「両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの」をいうのであるから、かかる状態にあつた被告が、右事故前健康な普通人と同じ労働能力を有していたとは到底考えられない。これ等の事実を考慮すると、仮に、被告に本件後遺障害による労働能力の喪失があつたとしても、右喪失率は、一三パーセント相当と認めるのが相当である。蓋し、障害等級八級該当の後遺障害の労働能力喪失率は四五パーセント程度であるが、被告の本件後遺障害は、前叙のとおり加重併合により右等級八級に昇級したのである故、右後遺障害による労働能力の喪失率は、四〇パーセントとするのが相当であるところ、被告には前叙のとおり障害等級一〇級四号該当の既存障害が存し、右既存障害の労働能力喪失率は二七パーセントであり、したがつて、右喪失率四〇パーセントから右喪失率二七パーセントを差引くとその残率は、一三パーセントとなるからである。同(ニ)ないし(ホ)の各事実及び主張は、争う。なお、被告の本件逸失利益算定の基礎収入については、同人の本件休業損害に関する前叙答弁と同じである。同(4)(イ)中被告の本件入通院については、前叙(1)(ロ)に対する答弁のとおりであつて、右答弁の限度で右主張事実を認めるが、同(イ)のその余の事実及び主張は争う。同(4)(ロ)中被告に障害等級八級該当の後遺障害が残存することは、認めるが、その主張は、争う。仮に、被告に本件後遺障害慰謝料が認められるとしても、同人の右後遺障害は、その障害等級につき、前叙のとおり併合八級の認定を受け、既存障害について一〇級四号の認定を受けたのであるから、右事実に基づけば、右慰謝料の金額は、金三〇〇万円程度が相当である。同(5)の事実は、不知。同(6)の主張は、争う。同(四)(1)の事実は、認める。同(2)の主張は、争う。同(五)の主張は、争う。

(二) 抗弁

(1)(イ) 本件交差点の東側に存する本件横断歩道の南北個所には歩行者用信号機が、右交差点の北東個所と西南個所には車両用信号機(前者が東行き用、後者が西行き用。)が、それぞれ設置されており、右歩行者用信号機は、押ボタン式になつていて、右横断歩道を横断歩行する者は、右信号用押ボタンを押して、右信号機の標示が赤色から青色に変わるのを待つて、右横断歩道上を横断歩行する。しかして、右車両用信号機(この内本件事故と関係があるのは、東行き車両用信号機。以下同じ。)の標示は、横断歩行者が右押ボタンを押さない限り常時黄点滅である。又、右車両用信号機の標示は、右交差点から更に西方約八〇メートルの地点に存する交差点(以下西方交差点という。)の東行き車両用信号機の標示と連動していた。

(ロ) 原告若山は、本件事故前、西方交差点の東行き車両用信号機の標示が赤色であつたため、右交差点の西側入口において先頭で原告車を停車させていたところ、右信号機の標示が青色に変つたので自車を発進させた。原告若山は、引続き自車を東進させ、右発進後約一〇秒後に本件交差点に至つたが、右交差点の西方手前約二〇ないし三〇メートルの地点で、本件横断歩道の北側に歩行者が立つているのを認めたが、右歩行者が大人であるし、右交差点の車両用信号機の標示が黄色点滅であつたため、そのまま自車を進行させ、右横断歩道に至つた時、本件事故が発生した。

(ハ) 被告は、同人の対面する歩行者用信号機の標示が赤色であつたにもかかわらず、右標示を無視して本件横断歩道を横断歩行しようとし、その結果、本件事故が惹起された。

(2) 本件事故発生には、被告の信号機の標示無視という右過失も関与しているのであるから、同人の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当り、斟酌されるべきである。

しかして、右斟酌すべき、被告の右過失割合は、右事実関係に基づき、五〇パーセントが相当である。

3  抗弁に対する被告の答弁

抗弁事実(1)(イ)は、認める。同(ロ)中原告若山が本件事故直前原告車を運転し西方から本件交差点に至り右交差点において右事故を発生させたこと、原告若山が右交差点に至るまでの間本件横断歩道北側に立つている人を認めたことは、認めるが、同(ロ)のその余の事実は、争う。同(ハ)の事実は、否認。被告は、本件横断歩道北側に立ち、同人の対面する歩行者用信号機の標示を青色に変えるため、前叙押ボタンを押し、その後約四〇ないし五〇秒待つて、右信号機の標示が青色に変わつたので、本件横断歩道上に出て横断を始めたものである。被告は、右横断開始前、東方から西進して来た軽四輪自動車が西行き車両用信号機の標示赤色にしたがい停車したのを認め、その後に右横断を開始した。

本件事故は、右事実から明らかなとおり、原告若山が本件車両用信号機の標示赤色を無視して原告車を進行させたことによつて発生した。

したがつて、右事故発生に対する被告の過失は、全く存在しない。

第三証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴

一  請求原因(一)、(二)の各事実、同(三)中被告が本件事故により受傷したこと、被告が原告等主張にかかる各病院に入通院して右受傷の治療を受けたこと、被告が右治療を受けるため費用を出捐したこと、被告の右受傷が現在症状固定していること、同(五)(1)、(3)の各事実は、当事者間に争いがない。

二1  そこで、被告の抗弁、これに対する原告等の再抗弁について判断するに、右判断は、反訴請求原因(三)以下に対する分、反訴における抗弁に対する分と同じであるから、これ等をここに引用する。

2  右認定説示に基づくと、原告等は、被告に対し、現在なお、各自本件損害金一〇二四万三五八八円及びこれに対する昭和五九年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う債務を負つているというべきである。

三  そうすると、原告等の本訴請求は、本件損害賠償債務が右損害金一〇二四万三五八八円を超えて存在しないことを確認するとの範囲内で理由があるが、その余は理由がない、といわざるを得ない。

第二反訴

一1  反訴請求原因(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、原告会社には自賠法三条により、原告若山には民法七〇九条により、被告に対し、同人が本件事故により受けた損害を賠償する責任がある。

なお、原告等は、民法七一九条に基づき、被告に対し、連帯して右責任を負つている。

二  被告の本件損害

1  治療関係費

治療費 金一〇六二万〇九三〇円

入院雑費 金二三万三〇〇〇円

(一) 被告が本件事故により受傷したこと、同人が右受傷治療のため次のとおり入通院したこと、被告が本件治療費として合計金一〇六三万六三三七円出捐したことは、当事者間に争いがない。

宗野病院 昭和五九年三月二三日入院。

吉田病院 同年三月二三日から同年四月七日まで入院。

同年四月八日から同年一一月五日まで通院。

久野病院 同年一一月六日から同月八日まで通院。

同年一一月九日から昭和六〇年三月三一日まで入院。

(二)(1) 原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証の一、成立に争いのない甲第六号証の二、乙第一、第二号証を総合すると、被告は本件事故により頭蓋底骨折、左頬骨骨折、頸椎捻挫、頭部外傷Ⅱ型等の傷害を受けたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) 前掲甲第三号証の一、甲第六号証の二、乙第一、第二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証の二、三、成立に争いのない甲第九号証、第一一号証、乙第三ないし第六号証、第一三号証の一ないし三、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(イ) 被告は、本件事故直後、宗野病院へ搬入され救急処置を受けた後吉田病院(神戸市兵庫区新開地所在)を紹介されて右病院に救急搬入された。被告は、同日以後、右病院に入院し治療を受け、その間、左頬骨骨折と視力低下に関して神戸市立中央市民病院で診察治療を受けた。被告は、昭和五九年四月七日、担当医師吉田耕造の意見は未だ入院継続の要ありということであつたが、被告自身、これ以上同人の家族等に心配をかけたくないし加害者である原告若山の立場も慮つてやりたいとの考えから、右病院を退院し、翌八日から、右病院への通院治療に変えた。

しかし、右病院の所在地と被告の住所地が極めて遠距離であり、被告自身の体調が右遠距離通院に耐えられないため、被告は、右通院を昭和五九年一一月五日までとし、同日右担当医師作成の被告の症状と治療内容、治療継続の希望等が記載された紹介状を得て、久野病院(神戸市西区神出町所在)へ転院することにした。

(ロ) 被告は、昭和五九年一一月六日、久野病院へ赴き、医師久野一郎の診察と治療を受け、同月八日まで右病院へ通院して治療を受けた。しかし、被告自身の体調が右通院に耐えられず、右医師から入院治療を勧告されたこともあつて、被告は、同月九日、右病院に入院し、同日から昭和六〇年六月一四日右病院を退院するまで、右入院治療を継続した。

(ハ) 被告は、昭和六〇年六月一五日から昭和六一年五月一六日まで、右病院に通院して治療を受けたが、右担当医師も、右通院治療の必要を認めていたところ、昭和六一年五月一六日、被告の本件受傷が症状固定した旨診断した。

(ニ) 被告は、久野病院に転院してから後も、前叙神戸市立中央市民病院へ前叙医師久野一郎の指示で通院し治療を受けた。

結局、被告は、右中央市民病院へ昭和五九年三月三一日から昭和六〇年六月一〇日までの間、実治療日数二四日通院して治療を受けた。

(ホ) 被告は、神鋼病院(神戸市中央区脇浜町所在)所属眼科医師大沼貴弘が久野病院に出張診察に来院していたところから、眼科につき右病院で右医師の診察を受けていたが、昭和六一年三月三一日、右神鋼病院に赴き、右病院で右医師の診察を受けた。被告は、同年六月二日にも右病院に赴いているが、それは、右医師作成の診断書等関係書類の交付を受けるためであつた。

(3) 叙上認定の各事実に基づくと、被告が本件受傷治療のため要した入院期間は、昭和五九年三月二三日から昭和六〇年六月一四日までの二三四日間と、又、被告が右受傷治療のため要した通院期間は、昭和五九年四月八日から昭和六一年五月一六日までの間で、実治療日数二六七日と、それぞれ認められる。

(4)(イ) 前掲乙第五、第六号証(神鋼病院医師大沼貴弘作成)には、昭和六一年三月三一日症状固定なる記載があるが、被告が右医師の診察治療を受けた経緯や右医師が眼科医であることは前叙認定のとおりであるところ、右各文書も、眼科医である右医師が被告の眼科関係疾患についての診断結果を記載したものであることが、その内容に徴し明らかであるから、右各文書の右症状固定なる記載をもつて、被告の本件受傷全体が症状固定したとは認め得ない。

よつて、右乙第五、第六号証の右記載も、本件症状固定に関する前叙認定を何等妨げ得ない。

(ロ) 成立に争いのない甲第一二号証の一、二、乙第七号証の一、第一六号証の一、二、第一七、第一八号証によれば、被告は前叙認定にかかる各病院での治療のほか山田医院(津山市南新座所在)で診察を受けたことが認められる。

しかしながら、被告の右山田医院における診療については、その必要性、就中担当主治医の指示が有つたとの点についての主張・立証がない。

よつて、被告の右山田医院における診療については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(ハ) 他に、右(ロ)の認定を覆えすに足りる証拠はない。

(5)(イ) ところで、被告が出捐した本件治療費の合計額が金一〇六三万六三三七円であることは、前叙のとおり当事者間に争いがないが、右治療費中に山田医院関係分として、金五四三九円、金九九六八円合計金一万五四〇七円が含まれていることが被告の主張により明らかである。しかし、右山田医院における診療が本件事故と相当因果関係に立つとは認め得ないことは前叙認定のとおりであるから、被告の主張する右山田医院関係分治療費金一万五四〇七円も又、被告の本件損害と認めることができない。

よつて、被告の本件損害としての治療費は、被告の出捐した右金一〇六三万六三三七円から右山田医院関係分金一万五四〇七円を差引いた金一〇六二万〇九三〇円というべきである。

(ロ) 被告が本件受傷治療のため二三四日間入院したことは、前叙認定のとおりであるが、弁論の全趣旨によれば、被告が右入院期間中雑費を支出したことが認められるところ、本件損害としての入院雑費額は一日当り金一〇〇〇円の割合と認めるのが相当である。

よつて、本件入院雑費の合計額は、被告の主張どおり金二三万三〇〇〇円と認めるのが相当である。

2  休業損害 金五五六万三三八三円

(一) 被告が本件事故当時訴外藤勝組を経営していたこと、右事故前被告の聴力に障害があつたことは、当事者間に争いがない。

(二)(1) 証人藤澤たま子の証言、被告本人尋問の結果(ただし、右証人及び被告本人の右各供述中後示信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、右藤勝組は主に土木建築請負を営業目的とし、被告の個人企業として昭和四八年頃からその営業を始めたものであるが、右営業開始後可成りの期間、被告が主として顧客との契約関係、長男と次男が主として工事現場関係の業務をそれぞれ担当し、右工事が多忙時にのみ臨時に従業員を雇い入れて右営業を行つていたこと、当時右藤勝組の全収入から長男、次男、場合によつては臨時従業員の給料、その他の経費を差引いた残額が被告の収入であつたこと、被告は、本件事故当時右藤勝組の業務に就いていたが、本件受傷治療期間中全く右就労ができなかつたこと、被告の右受傷後右藤勝組の経営は、名目上は被告に残つているものの、その実質面は長男、次男に引き継がれ、右経営による収益も右両名に帰属し、被告に対する右収益の配当は全くなく、被告には生活に必要な費用だけ渡されていることが認められ、右認定に反する右証人、被告本人の各供述部分は、にわかに信用することができない。加えて、右藤勝組の売上げが、本件事故後も伸長していることが窺えることは、後叙認定のとおりである。

(2) ところで、本件の如く企業主が身体を侵害されたため企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、原則として企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきであると解される。

しかし、本件では、右藤勝組の経営内容、その収益状態等について右のとおり認定できるに止まり、本件事故当時における、被告の右藤勝組の収益中に占める被告の個人的寄与に基づく収益の割合は、本件全証拠によるも、これを認めることができない。(被告本人の供述によつても、これを認めるに至らない。)

(3)(イ) ただ、被告本人が本件事故当時就労していたことは右認定のとおりであるから、少くとも同人には、同人個人の労務に対し通常支払われるであろう賃金相当の収入はあつたというのが相当である。

しかし、本件においては、右収入の具体額を認めるに足りる証拠もない。

かかる場合には、昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計全労働者年齢別平均年収額によらざるを得ないところ、成立に争いのない甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は本件事故当時五七歳(大正一五年九月一六日生)であつたことが認められるから、右資料(五七歳該当)によると、被告の本件事故当時における平均年収額は、金三六九万六六〇〇円と推認される。

(ロ)(a) ところで、本件事故前被告の聴力に障害があつたことは前叙のとおり当事者間に争いがないところ、前掲甲第六号証の二、乙第一七号証によれば、被告の本件事故前における聴力障害は平均純音聴力損失値四〇デシベル以上で既存障害として後遺障害等級一〇級四号に該当することが認められ、右認定に反する成立に争いのない乙第二一号証の記載内容部分は、右各証拠と対比してにわかに信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

しかして、障害等級一〇級四号に該当する障害内容が「両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの」であることは、当裁判所に顕著な事実である。

一方、証人藤澤たま子、被告本人の各供述によつても、被告が本件事故当時補聴器を使用していたことが認められ、弁論の全趣旨によれば、被告の本件受傷後も前叙藤勝組の売上げは年々伸長していることが窺える。

(b) 右認定各事実を総合すると、本件事故前、前叙藤勝組の経営は、長男、次男の手腕によつて補完されており、被告個人の労働能力は、当時右既存障害により健康な普通人(五七歳の男子を基準とする。以下同じ。)に比して相当程度欠落していた、と推認するのが相当であり、右認定に反する、右証人藤澤たま子、被告本人の各供述部分はにわかに信用することができない。

しかして、右欠落の程度は、叙上認定の各事実と所謂労働能力喪失率表を参酌し、三〇パーセントと認めるのが相当である。

(c) 右認定説示から、被告の本件休業損害算定の基礎とすべき、同人の本件事故当時における収入は、前叙資料から認められる平均年額金三六九万六六〇〇円の七〇パーセントに相当する金二五八万七六二〇円と認めるのが相当である。

(4) 被告が本件受傷治療のため入通院した期間が昭和五九年三月二三日から昭和六一年五月一六日までの七八五日間であることは、前叙認定のとおりである。

(5) 叙上認定説示の各事実を基礎として、被告の本件休業損害を算定すると、金五五六万三三八三円となる。

(369万6600円×0.7)×785/365≒556万3383円

3  本件後遺障害に基づく逸失利益 金六六四万一九〇三円

(一) 被告に後遺障害等級八級(併合)該当の後遺障害が残存することは、当事者間に争いがなく、又同人の本件受傷が昭和六一年五月一六日症状固定したこと、同人に右障害等級一〇級四号相当の既存障害が存在すること、右既存障害により被告の本件事故当時における労働能力が健康な普通人に比して三〇パーセント相当程度欠落していたと推認されること、被告の本件受傷治療期間中における前叙藤勝組の経営及びその収益の帰属の変化、その結果としての被告の収入状態は、前叙認定のとおりである。

(二) 証人藤澤たま子、被告本人の各供述及び弁論の全趣旨によると、被告の本件受傷が症状固定した昭和六一年五月一六日後において、被告は、本件後遺障害のため就労できず、したがつて、その収入も皆無に近い状態であることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) 右認定の各事実に基づくと、被告の本件後遺障害に基づく労働能力の喪失が認められるところ、右喪失率は、右認定各事実に所謂労働能力喪失率表を参酌し、五〇パーセントと認めるのが相当である。

(四) 被告が本件事故当時前叙藤勝組の所謂自営業者であつたこと、同人が本件症状固定時五九歳になつたこと、同人には本件事故前障害等級一〇級四号に相当する既存障害が存在したこと。同人の右既存障害と労働能力との関係、右藤勝組の経営実態等については、前叙認定のとおりであるところ、右認定各事実に昭和六一年度簡易生命表によると五九歳の男子の平均余命が二〇・四九歳と認められることを合せ考えると、被告の就労可能年数は、本件症状固定日の翌日である昭和六一年五月一七日から六年と認めるのが相当である。

(五) 被告の本件後遺障害に基づく逸失利益算定の基礎となる収入の年額は、前叙認定にかかる金二五八万七六二〇円と同額と推認するのが相当である。

(六) 以上の認定各事実に基づき、被告の本件後遺障害に基づく逸失利益の現価額を算定すると、金六六四万一九〇三円となる。(ただし、五・一三三六は、新ホフマン係数。円未満四捨五入。)

258万7620円×0.5×5.1336=664万1903円

4  慰謝料 金八五〇万円

(一) 入通院分 金二五〇万円

被告の本件受傷の部位、右受傷治療のための入通院期間等については、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、被告の入通院慰謝料は、金二五〇万円が相当である。

(二) 本件後遺障害分 金六〇〇万円

被告に障害等級八級該当の後遺障害が残存することは、前叙認定のとおりである。

右認定に基づけば、被告の本件後遺障害分慰謝料は、金六〇〇万円が相当である。

5  叙上の認定を総合すると、被告の本件損害の合計額は、金三一五五万九二一六円となる。

三  原告等の抗弁(過失相殺)

1  抗弁事実(1)(イ)、同(ロ)中、原告若山が本件事故直前原告車を運転し西方から本件交差点に至り右交差点において右事故を発生させたこと、原告若山が右交差点に至るまでの間本件横断歩道北側に立つている人を認めたことは、当事者間に争いがない。

2(一)  成立に争いのない甲第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二、原告若山政彦本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、撮影対象については争いがなく、証人藤澤たま子の証言によりその余の付陳事実が認められる検乙第一ないし第五号証、右証人の証言により付陳事実が認められる検乙第六ないし第一一号証、証人河合義郎の証言、原告若山政彦本人、被告本人の各尋問の結果(ただし、被告の右供述中後示信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(1)(イ) 本件交差点の道路は、平坦でアスフアルト舗装路であり、本件事故当時は晴天で、右路面は、乾燥していた。

又、右交差点における制限最高速度は時速四〇キロメートルで、右交差点を構成する東西道路は直線上で、その見通しは前後いずれも良好である。

(ロ) 西方交差点の車両用信号機の標示と本件交差点の車両信号機及び歩行者用信号機の標示との関係は、次のとおりである。(ただし、本件交差点の各信号機の標示の関係は、横断歩行者が歩行者信号用の押ボタンを押してからのものである。又、標示色は、右方記載から左方記載へ変化する。)

〈省略〉

なお、本件車両用信号機の青色標示三秒は、西方交差点の車両用信号機の標示が青色から黄色に変つた瞬間に本件交差点の歩行者用信号用の押ボタンを押すと、本件交差点の車両用信号機の標示が三秒で青色から黄色に変わることを示す。又、西方交差点の右標示時間は不動であり、西方交差点の車両用信号機の青色標示五六秒間に右押ボタンを押すと、本件交差点の歩行者用信号機の標示が赤色から青色に変わるのに七八秒要する。

(2) 原告若山は、西方交差点の東行き車両用信号機の標示が赤色であつたので、右標示にしたがい、同一方向に進む車両の先頭で自車を停車させていたところ、右信号機の標示が青色に変つたので自車を発進させ、本件交差点に向け右車両を進行させた。なお、右車両は、オートマチツクのため急発進できない。

原告若山は、右車両を時速約四〇キロメートルの速度で進行させていたが、本件交差点の西方手前二〇ないし三〇メートルの地点で、本件横断道路北側に立ちその左方を見ている被告を認めたが、大人であるし飛出しはないと考え、そのまま右車両を右速度で進行させ、西方交差点を発進後約一〇秒で本件横断歩道附近に至り、そのまま右横断歩道上を通過しようとしたところ、右横断歩道上に出て来た被告と右車両左側(助手席)のドアーミラーとが接触し、本件事故が発生した。

(3) 本件事故の管轄警察署である兵庫県明石警察署の捜査担当官は、本件事故発生時における本件車両用信号機の標示と本件歩行者用信号機の標示につき、原告若山と被告の言い分が喰い違う(原告若山は、右車両用信号機の標示が黄色点滅であつたと主張し、被告は、右歩行者用信号機の標示が青色であつたと主張。)ため、右両名の了承を得たうえで右両名を所謂嘘発見機にかけようとした。

原告若山は、右趣旨を了承し、右嘘発見機の実施を受けたが、同人の右供述に嘘偽がないとの結果が出た。

一方、被告は、右係官の要請にもかかわらず、右嘘発見機の実施を受けなかつた。

(二)  右認定に反する、証人藤澤たま子の証言、被告本人の供述部分は、前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

なお、証人藤澤たま子の証言により真正に成立したものと認められる乙第一九号証の一、二(右証人の日記)は、被告の妻である右証人が作成したもので、右証人と被告の右身分関係から見て、その記載内容について客観性に乏しく、その記載内容を、にわかに信用することができない。

3(一)  叙上認定の各事実を総合し、これに、時速四〇キロメートルで進行する自動車は一秒間に一一・一一メートル進行するという、当裁判所に顕著な事実を合せ考えると、本件事故は、本件交差点の車両用信号機の標示、黄色点滅にしたがい進行した原告車と本件歩行者用信号機の標示が赤色であつたのにもかかわらず本件横断歩道上に進出した被告とが接触して発生した、と推認するのが相当である。

(二)  右認定説示のとおり、本件事故の発生に対しては、被告の信号標示不遵守の過失が関与しているというべきであるから、同人の右過失は、同人の本件損害額の算定に当り、斟酌されるべきである。

よつて、原告等の抗弁は、理由がある。

(三)  しかして、被告の右過失割合は、叙上認定の本件事実関係から見て、全体に対し四五パーセントと認めるのが相当である。

そこで、被告の右過失割合で、同人の前叙認定にかかる本件損害金三一五五万九二一六円を、所謂過失相殺すると、被告が原告等に請求し得る本件損害額は、金一七三五万七五六八円となる。

四  損害の填補 金八〇四万三九八〇円

1  被告が本件事故後同人の本件損害に関し合計金八〇四万三九八〇円受領したことは、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、被告の右受領金合計金八〇四万三九八〇円は、本件損害の填補として、前叙認定にかかる同人の本件損害金一七三五万七五六八円から控除すべきである。

しかして、右控除後の、被告の本件損害額は、金九三一万三五八八円となる。

五  弁護士費用 金九三万円

証人藤澤たま子の証言及び弁論の全趣旨によると、被告は、原告等が本件損害の賠償を任意に履行せず、かつ、原告等から本訴債務不存在確認の訴まで提起されたため、弁護士である被告訴訟代理人等に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙認容額等を総合し、本件事故と相当因果関係に立つ本件損害としての弁護士費用は、金九三万円と認めるのが相当である。

六  結論

上来の認定説示を総合し、被告は、原告等に対し、各自本件損害合計金一〇二四万三五八八円及びこれに対する本件事故日であることが当事者間に争いのない昭和五九年三月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有する、というべきである。

第三全体の結論

以上の次第で、原告等の本訴請求並びに被告の反訴請求は、いずれも、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれ等を認容し、その余は理由がないから、これ等を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、九五条を、反訴に関する仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 発生日時 昭和五九年三月二三日午後零時一五分頃

二 発生場所 明石市林崎町二丁目四番一二号先交差点(信号機設置)横断歩道上

三 加害(原告)車両 原告若山運転の普通乗用自動車

四 被害者 歩行中の被告

五 態様 加害車が、右交差点を東進していたところ、折から右横断歩道上を北方から南方に向け歩行していた被告に接触した。

以上

別表

〈省略〉

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